東日本大震災から10年を迎えて


謹啓 早春の候、皆様におかれましては、益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

今年であの東日本大震災から十年の月日が経ちます。皆様からの多大なるご支援ご協力をいただきましたおかげで、こうして十年目の日を迎えることが出来ました。改めまして心から御礼を申し上げます。

十年前のあの日、大地震により発生した大津波によって、私たちはたくさんのかけがえのないものを失いました。途方もない瓦礫のなか、日々折れそうな気持ちと闘いながら、元に戻りたい、絶対に再建してみせるという強い気持ちを持ち、会社の再建そして故郷の復興のために、この十年間、社員と共に前を向いて全力で進んでまいりました。

お陰様で、昨年は念願であった社屋の再建も果たし、震災から九年振りに創業の地である魚町へと戻ってくることが出来ました。

またこの十年の間、新たな船も二隻建造することが出来ました。昨年竣工した第一昭福丸は、クロマグロでは世界初となるMSC国際資源認証も取得することが出来ました。震災復興活動を通して、たくさんの仲間たちと出会い、支えられてきました。本当に感謝しかありません。

私たちは東日本大震災を経験して、改めて三つの大切なものに気がつきました。

一つめは、エネルギーの大切さ。震災当初、電気もガスもない、ろうそくの明かりのなかで生活をしてきました。普段当たり前にあるエネルギー、失ってみて初めてその必要性そして大切さというものに気がつきました。

二つめは、食の大切さ。着る物は数日間一緒、住むところは雨風をしのげて、暖が取れればテントでも体育館でも生きていけました。

しかし、食べる物がなければ生きていくことさえ出来なかった。衣食住の中で最も大切なのは食べるということ。人間は食べる物がなければ生きていくことが出来ないということを、私たちは身をもって体験し、改めて食の大切さというものに気がつきました。

三つめは、人の繋がりの大切さ。震災復興を通して、たくさんの人々と出会い、人の温かさに触れ、人って良いなと心からそう思うことが出来ました。皆様との出会いあったからこそ、いまの私たちがある。改めて人の繋がりの大切さというものに気がつきました。

私たちは今後も本業である漁業経営と共に、これら震災で気がついた三つの大切なことも発信し続けることが、私たちの大切なお役目だと思っております。

いま日本の漁業は過渡期にきております。若者は地方を離れ、都会へと移り住み、第一次産業への就業者は年々減少しつつあります。

世界中で食料産業が成長しているなか、何故我が国の食料産業だけが衰退し続けているのか、これらの問題を私たちは解決していかなければなりません。先輩たちから引き継いだこの漁業を、かつて世界一だった日本の漁業を、もう一度世界と闘えるような、人が集まる魅力ある産業に復興させること。日本の地方の基幹産業である第一次産業を、ヨーロッパ諸国のように成長産業にすること。これが私たち臼福本店の使命だと思っています。

最後になりますが、次の十年そして百年後の未来へ向けて、故郷そして日本の漁業復興のために、これからも社員一丸となって様々なことにチャレンジしていく所存です。皆様におかれましては、今後とも変わらぬご指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。


謹白

令和三年 三月吉日
株式会社臼福本店
代表取締役社長 臼井壯太朗