PROJECT 02

【臼福本店 船頭 座談会】

業界トップクラスの船頭に訊く、
遠洋マグロ漁業という“狩り”の魅力

臼福本店が所有する昭福丸は、
遠洋マグロ延縄漁(餌が取り付けられた釣り針を海中に吊るして
マグロを釣る漁法)でマグロを追う。
漁場はインド洋、ケープタウン沖、シドニー沖、タスマニア沖、
中部大西洋、北西大西洋。
1年〜1年半にも及ぶ長い航海をまとめる船の総責任者が、
船頭(漁労長)だ。
長い年月をかけて強靭な精神力と体力を培って来た彼らは、
遠洋漁業のどんな点に喜びや魅力を感じているのだろうか。

狙った獲物が120パーセント釣れる、快感

───
はじめに、乗組員の内訳を教えてください。
前 川:
乗組員は23〜24名。機関部、無線部、凍結処理などの役割分担があります。
すべてが男性で、現在はインドネシア人乗組員との混乗です。
───
遠洋マグロ漁船での航海の、どこに魅力を感じていらっしゃいますか。
菅 原:
マグロ船の魅力は、諸外国が見られることかな。
俺はスエズ運河もパナマ運河も通って、世界一周してきた。
仕事自体は一年乗ればだいたい覚えます。やはり、外国を巡る楽しみがありますね。

船自体が大きな職場だから、通勤はないし、職種も変わるわけでない。
20数人の乗組員の顔だけを見ていればいい。丘で仕事をしたくない、
人との関係が嫌だという人にも向いていますね。
自分が南アフリカの方に行きたい、ハワイの方に行きたい、
オーストラリアの方に行きたいといった希望があれば、
そこに行く船を探して乗ればいい。若いうちはそれが可能です。
前 川:
船頭としては、狙い通りのものがガバッと釣れるとうれしいね。
100パーセントを超えて120パーセントになると、もう快感。そうそうないですけどね。
菅 原:
前川船頭だからできる。俺みたいな、船頭になって1、2年の経験ではまだまだ。
かえってシャチに魚を全部取られてしまいますよ。自分が船長の立場で漁に行っても、
船頭からは何も教えてもらえません。
船頭になり自分の船ができて初めて、具体的な秘策を教えてくれるんです。
前 川:
いやいや、教えるものでなく、盗むものですから。
漁法については、前の船頭から盗んだ部分も独学の部分もあります。
実験と経験のトライアンドエラーで培ってきていますね。

ミナミマグロの“狩り”を成功に導く
船頭の経験、勘、頭脳戦

───
前川船頭の船は、日本でも一、二を争うマグロの漁獲量と聞きました。
どういったところに特徴があるのでしょうか。
前 川:
そうですね。特に南アフリカは寒暖の差が激しいんです。
赤外線カメラで海の寒暖を撮ってもらい送ってもらうのですが、
写っているのが寒か暖か、それとも雲なのかを見極めるのは、目の養い方です。
私も長い間かけてやっと見分けられるようになってきました。
つまり、訓練でできるようになるものなんですよ。
菅 原:
前川船頭と俺がそれぞれ自船の海象ディスプレイを見ながら、
無線でやり取りして状況を伝えてもらっています。
前 川:
同じモニターを見ているから、他の船頭の飲み込みは早いです。
無線での交信なので他社の船が聞いていることもあるけれど、ディスプレイのメーカーが違うしね。
それに、まっすぐ走れば目的の漁場がバレてしまうので、
いったん北上してレーダーに写らなくなってから目的地に向かう、
といった方法で他船を撒くこともあります。
───
自分たちも動けば対象物(マグロ)も動きますよね。
投げ縄が、船の動きや潮で動くことも計算して移動するのでしょうか。
前 川:
そうです。5時間から6時間に1度の割合で、赤外線カメラが現在の位置を写します。
これまでの5時間で動いた軌跡を把握し、
次の5時間で動くであろう場所の予測を立ててから対象物に向かわないと、うっかり通り過ぎてしまう。
ですから、この勝負どころでは何時であろうと起きて指示しています。
───
お話を聞いていると、戦略と頭脳戦を駆使したスポーツのようです。
前 川:
狩りと一緒です。ソナーが使えるわけでないので、ミナミマグロ漁は他の魚とまったく違いますよ。


漁船で大切なのは「人の和」

───
乗組員に対する船頭の仕事について教えてください。
前 川:
ひと言でいうと「まとめる」ことですね。
機関部、無線部といった役割の区分区分にライバルがいたり、派閥があったり。
同じ外人同士でも宗教や食べ物で合う合わないもある。
仕事はみんな覚えてしまえば一通りこなしますが、男ばかりの生活が続けばいがみ合いもある。

船内という基盤がしっかりしていなければ、漁場を探しても上の空です。
今からどこにいって何をするのかがしっかり身に入ってこない。
船頭だけに強い意志があっても、船は不安定で、何かに足を引っ張られているような感覚になります。
───
乗組員をまとめあげるためのコツはなんでしょうか。
前 川:
食べ物でしょうね。船の要と言っていい。乗組員にはイスラム教もいればキリスト教もいるので、
コックは大変だけれど日本人用、イスラム用、クリスチャン用と作ってもらいます。

実は私の船のコック長はイスラム教の人間で、豚を使うのを嫌っていました。
そこを説得し、10年連れ添って、和食でもラーメンでも作ってくれるまでに育て上げたんです。

───
菅原船頭が、前川船頭から学んだことにはどんなことがありますか。
菅 原:
たくさんありすぎて絞れないかなぁ……。
前 川:
やっぱり、人間関係じゃないかな。
28号昭福丸に乗るために、いい船員を乗せようと私の船から何人か引き抜いていきましたから。
泥棒みたいなもんですよ(笑)。いい船員は、1度の航海で船を降りることはないし、
言葉の通じない人も、そのいい船員を説得すれば皆に船頭の意思が行き渡る。
少し気の利いた人をひとり連れて行くだけで、だいぶ船の中のまとまりがいいものなんです。
航海は人材のチョイスから始まっていると言っても過言ではないですね。
───
では、前川船頭から見た菅原船頭の良さを教えてください。
前 川:
人に優しいところ。2年近く20数名が船内で過ごす中、人との「和」は重要です。
役職についた日本人が6、7名乗っていますが、
日本人の優しい男はインドネシアの乗組員から好かれますね。逆に、厳しい人には寄り付きません。
───
長い航海を乗り越えるには「和」が重要なのですね。
前 川:
テレビ番組でよく、「悪いことしたらマグロ船に乗せる」といった発言があるでしょう。
今の時代、それはありませんよ。むしろ、やくざな人は船に乗れません。
その誤解はぜひ解いてほしいと思います。

船乗りから人気が高い臼福の船

───
臼福本店の船に乗ってよかったと思うことはありますか。
菅 原:
「地元の船」は、心強いです。
やはり家族が心配で、何かあったときにすぐ会社に頼れるのはありがたいですね。
───
気仙沼には他の会社もありますが、臼福本店を選んだ理由は?
菅 原:
俺たちが船に乗り始めた約30年前、臼福の船は人気が高くなかなか乗れませんでした。
俺が乗った別の会社は畳んでしまいましたし。
臼福の船に乗るのに、ハードルの高さを感じていましたね。
船員のレベルが高いだろうなと予想していました。

実際、船頭はトップクラス。ミナミマグロは前川船頭が一番だし、
ジャワ沖では田名網船頭たちがトップです。
技術の高い船頭が集まっているから、働きたいと言ってくれる人も多いですね。
魚は釣れても、人が居着かない船も中にはあります。航海のたびに船頭以外の乗組員が変わったり。
臼福本店は、みんな長く乗っている人が多いですね。
前 川:
健康で根性がしっかりしている、若い人にぜひ来てほしい。
見ると聞くとでは大違いなところもたくさんあるでしょうが、仕事は面白いですよ。
───
2014年3月に出来上がる予定の新しい船には前川船頭が乗船されると聞きました。
前 川:
船主が、これまでにない船を造りたいと張り切っています。
初めての船型で、喫水線の下方や内側に工夫があり、水流が干渉せず、プロペラの大きさを少し大きく……
といった、プロフェッショナルに注目してもらえるポイントがあるようですね。
漁船で初めてインターネットができるようにし、
Skypeで地球の裏側にいる子どもたちと私たちをつなごうという計画も。
食の大切さを訴えるいい機会になりますね。